ああ、こりゃ無視されたな、と思ったが、いつものことなのでさて寝るか、と布団に潜ろうとしたら
「寝てたみたいだからバッチリだ」
という返信とともに、ベッドの上で太ももとぱんつ晒して眠ってるそいつの妹の写真が。
速攻で抜いて「サンキュー。抜いた。むしろ既に3回抜いた」って返信して、
そいつからの返信はなかったのでその日はそのまま寝た。
翌日、そいつに直で
「昨日はサンキュな」
って言ったら
「何が?」
と言う返事。
「いや、夜中にメールさ……」
と返すも
「昨晩は俺、バイトで携帯は家に忘れてたんだが」
という。
そいつの携帯には送信履歴も残ってないと言うし、
ああ、俺の夢か、と思ったが俺の携帯にはしっかりと着信と写メールが残っている。
その場は俺の勘違いということで済ませたが、
後日、恐ろしいほどのsneg展開が待っていたのだ。
で、そんなことがあってから一ヶ月位して、
喪友達と酒を飲む機会があったんだが、7時から飲み始めて
何故だか知らんがハイペースで、そいつ10時前には酔い潰れてた。
仕方ないんで俺の部屋に運んで寝かしてたんだが、10分位して
俺に携帯を寄越して「家に連絡してくれ。今日は泊まるって」だと。
律儀なヤツだ、と思いつつも公認で携帯を渡され、しかも本人は意識朦朧としている現状。
俺はここぞとばかりに携帯の送信履歴をチェック。
しかし件のメールはなし。
写メールも残っていない。
これはどういうことだろう?
なんて思いながらも言伝通り、ソイツの家に連絡してやることにした。
電話に出たのはソイツの妹だった。
まぁ、こんなコトした直後の電話に本人が出て、動顛してたし、
俺も酔ってたこともあったんだろうけど
「××が酔い潰れちゃって、今日、俺のうちに泊まるんで連絡を――」
なんてシドロモドロに言伝して、不意に
「○○さんだよね? 『この間はどうも』」
なんて言っちゃったワケですよ。
そしたらもう、受話器の向こうで空気が凍りつくのを感じたね。
「あ……あ、あれは、兄が携帯忘れて、それでもなんかずっと着信してるから
その、イタズラのつもりで――」
なんて判り易く狼狽して言い訳する○○さん。
よくよく考えてみればあの写真、妙に自撮っぽかったし、ああ、やっぱりそういうことか、とか納得。
で、 「きょッ! きょきょきょ……きょ今日もお願いしていいかな、でへへ?」
なんてキモさ爆発に頼み込んでみたりしてみたわけよ。
どうせあとで酔ってたから、って言い訳すればいいや、的な軽いキモチでさ。
どうせ拒否されるだろうし――とか思ってたら
「アドレス教えてください。あとで、その、送りますから」
で、それからと言うもの、数週間に何度か、
俺が要求するとエロい写真を送ってくれる珍妙なメル友みたいな関係に発展した。
ある日、今度は俺も喪友飲みすぎて、
俺は終電逃してそいつの家に泊まることになったんだ。
日付も変わった夜遅く、出迎えてくれたのは喪友の妹で、
「両親は明け方にならないと帰ってこないから、兄の部屋で勝手に寝てください」
とのお言葉。
いつもメールで見ているのと同じ、ナイトスリーパー姿で「もう寝ます」といった風情なのか
少し機嫌悪目と言うか、つれない態度なのは気のせいだろうか?
そんなことを考えつつ、喪友の部屋に行って喪友はベッドに放り投げて、
俺は床の上に座布団敷いて寝ることにした。
もともと他人の部屋、というか他人の家で寝るというのはどうも勝手が違うので
寝付けないし、喪友のいびきのせいで目が冴えたりで1時間位した頃だったか。
不意にメールの着信。見れば相手は喪友の妹で
「起きてますか?」 なんて内容。
俺は「俺は起きてるけど、××はもう寝てるぞ」と返信。
数分して、再度着信。
「じゃあ、一人で出てきてくれませんか?
兄を起さないようにして」
俺は、数十秒迷った挙げ句、喪友を起さないように部屋を出た。
部屋から廊下に出て、ちょっと視線をずらすと
スリーパーパジャマの裾を押さえながら、なにやら落ち着かない様子の○○さんが居て、
俺を手招きして自分の部屋へと誘ってくれた。
部屋に入ると、そこは事実○○さんの部屋なのだろう、片付いている、というよりは
物が少なくて整然としている、だけど女の子らしい部屋だった。
○○さんはベッドに腰掛けて、自分の隣のスペースをぽんぽんと叩いて
「こっち、どうぞ」と勧めてくれたけど、俺はなんか怖気づいて
「いや、ここでいいや」
なんて腰抜け同然の返事で入り口近くに突っ立ったまま、そこを定位置にした。
なんか意味もわからず怖くて喋れないでいると、○○さんのほうから、
「……今、携帯持ってます?」
なんて訊ねてきた。
俺は「持ってますけど」なんて敬語で受け答えして
「ちょっと貸してくれません?」
と言われるがままに、だけど出来るだけ近寄らないように精一杯腕を伸ばして○○さんに携帯をパス。
もうなんでか知らないけど危機感で一杯だった。
「見ていいですか?」との質問にも無条件首肯。
どうせ見られて困るようなやり取りは最早知られてしまっていることだし。
「……私ね、送った写真もメールもすぐに消しちゃうんですよ。
ホラ、見られると困るし」
なんて、ホントに困った顔で笑いながら、俺の携帯をいじくる○○さん。
「だから、ちょっとだけ確認したくなったんですよ」と前置きして
「あれ、こんなの送ったっけ?」とか「うわ、我ながら……」とか
独り言交えながら携帯に見入る○○さん。
俺はもう逃げたくて逃げたくて、これなんて拷問? な気分だった。
一通り見終えたのか、○○さんは俺の携帯をパチンパチンと開いたり閉じたりしながら、
「あの……この写真、他に保存してたりします? パソコンとかに」
とか訊いて来る。
当時PCもってなかった俺は当然携帯内以外にそのデータを保存する手段がなかったので
素直に首を振って否定。すると
「よかった。じゃあ、ネットに流したりとかもしてないですよね?」
って再度質問。
俺は再度「してません」の意思表示。
「……私、こういうことしてますけど、そういうのじゃないですよ?」
とかワケのわからないこと言われたけど、言いたいことはなんとなくわかる。
つまりこういうプレイは望むところじゃない、とか痴女ではない、と言う意味だろう。
わかったから、俺を解放してくれ、と切に願った。
「こういう写真も喪男さん以外には送ったことないし」 とか
「でも、興味が無いわけじゃなかったんですよ」 とか
「イタズラとか、そういう感じで、少し度が過ぎただけで」
とか、そういうのはどうでもいいから、さっさと本題に入って、俺を糾弾するならしてくれ。
そして罵るだけ罵って解放してくれ。
誤る準備は出来てる。と、そう思った。
「……で、その――喪男さんは、その……」
と歯切れの悪いセリフのあと、○○さんは、小さく
「私の……写真で、その……してるんですよね?」
なんてとんでもないことを呟いてきた。
俺は聞こえなかったフリをした。
暫し沈黙が流れた。
ベッドに腰掛けたまま、上目遣いで俺を見る○○さんの視線が微妙に怖い。
でも俺は知らないフリをした。
少しして○○さんが手招いて俺を呼ぶ。
怖かったけど近寄る。
○○さんの前で屈むように指示されてそれに従い、
何をされるのやら、とオドオドしてたら
「ていっ!」
と小突かれた。
どうにも本気で怒っているご様子。
「で、どうなんです?」
という問いに、また聞こえないフリをする度胸を俺は持ち合わせていなかった。
俺は「これなんて羞恥プレイ?」とか思いつつ、消え入りそうな声で
「……はい、してます」
なんて情けない告白をした。
泣きたかった。というか殺して欲しかった。
この先、彼女にとって俺は「自分でオナニーしてる変態」という認識をされるのだ。
たとえ、すでにメールでそれを覗わせるやり取りがあったとは言え、
本人の目の前でその本人をネタにオナニーしてます宣言をさせられたのだ。
情けないったらありゃしない。
あの日、いつものノリで喪友にヘンなメールさえ送らなければ。
そんな先に立たない後悔の念が押し寄せてくる。
どうせこの後、
『へー。私でしてるんだ。ならやって見せてよ。いつもしてるやり方で、私が見てる前でさ』
なんて台詞が飛び出すに違いないのだ。
エロ漫画の読みすぎだが、この時点での俺は本気でそう思ってた。
そしてそれだけは断固として拒否したいシチュエーションだった。
俺の性癖は割とノーマルだったのだ。
そんなバカなことを考えていると
「……じゃあ、してみませんか?」
なんて言葉が聞こえた。
考えるまでもなく○○さんの台詞だった。
ホラな、来たぜ羞恥プレイのお誘いがよ!
俺は必死でそれを阻止しようと考えを巡らせた。
すぐ近く部屋には喪友が寝ている。
そしてそいつの妹が見てる前でオナニー。
しかも他人の家だ。
これは末代までの恥。
しかし一人っ子の我が家系は言うまでもなく俺で末代が決定しているのだが。
そんな俺のクールな思考とは裏腹に、俺が捻り出した言葉は
「いや、そういうのは一人のときでないと集中できないから」
なんてバカ丸出しのいい訳だった。
論理性も説得力もない、キモさだけが際立つ最低の答えだった。
そんな俺の答えに、○○さんは頬を赤らめ、照れたように目を背けた後、
「……あ、の。そうじゃ、なくて」
と小さく、
「……私と、あの……その――して、みませんか?」
○○さんは俺を真っ直ぐに見据えたまま何も言わない。
ああ、もうダメだ。
ダメダメだ。
経験値が足りない。
圧倒的に足りていない。
女の子のほうから誘われて、
「うわーい、やるやるー」
とか言うのはアリなのか?
ここで再度確認したりするのは野暮なのか?
そもそも本心なのか?
罠じゃないのか?
あんまり迷うと恥をかかせることにならないか?
というか拒否する理由はないのだが、どうやってコトに及べばいいんだ?
なんて言って近寄ればいいんだ?
脱がすのが先か?
触るのが先か?
何か言ってからか?
何も言わずにか?
ああ、キスが先か?
でもどのタイミングで?
というか俺から脱ぐべきなの?
そういうのってなんかすごくマヌケでない?
なんかカッコいいセリフを言うべき?
「嬉しい」とか、「初めてなんだ」とか。
いや、それ女のセリフだろ。
カッコ良くないし。
俺はチラリズムを探求するが故の変態染みた性欲を呪った。
そういうAVしか観たことがないから手順がまったくわからない。
マンガもエロゲもまったく役に立たない。
このマニュアル人間め。
死ね、俺。
一瞬の間にそんなことを考えて、だけどその間にも○○さんの瞳は微かに潤み始めているし、
唇はなんか微妙に艶っぽくなってるし、スリーパーから伸びたナマ脚は白くてツヤツヤだし、
今までは一杯一杯で気を回すことが出来なかったけど、スリーパーって布が薄いらしくて
○○さんの薄い胸ですら自己主張できてしまうくらいに、なんだろう?
乳首透けてる?
もしかして?
なコトに気付いてしまったりで、凄く扇情的な境遇に置かれていることを理解した。
むしろ理解できなかった。
何分そうしていたのかわからない。
心臓はバクバクだし、顔面はイヤな汗で一杯だったし、
身体中の筋肉は硬直して身動き取れなかったし、
頭は『脳みそ茹だるんじゃねーか?』ってくらいに熱かったし、
目眩がするくらいに自律神経をヤラれていた。
それでもゆっくりと彼女に近寄ってはいたらしい。
気がつくと俺は手を伸ばせば彼女に触れられるくらいの位置にいた。
さぞキモかったことだろう。
恐るべし、本能。
しかし覚悟はまだ出来ていなかった。
なにか言おうとして、でも喉がひり付いて、渇いて
「……う、あ」
なんて言葉でもない音を漏らして、今一歩を踏み切れないでいた。
彼女の視線はそれでも俺を真っ直ぐに見ていて。
それが余計に緊張させた。
「もう……あんまり、焦らさないで下さい」
不意に、彼女がそんなセリフを口にして、その両手を真っ直ぐ俺に伸ばしてきた。
そのまま、俺の首は彼女の細い腕に抱き寄せるように絡め取られた。
ゆっくりと彼女の顔が近付いてくる。
いや、俺の顔が近付いているのか。
首の後、彼女の手の中で開かれたままだった俺の携帯電話が、パチン、と閉じられる音を聞いた。
その音が、合図だった。
そう、合図だった。
こういう場合、目を閉じるのが礼儀だろうか?
それとも為すがままにされるべきなのだろうか?
そんなことを考えている間にも、徐々に迫る○○さんの顔。というか唇。
ついうっかり気を許してしまえば、自分からしゃぶり付いてしまいそうなくらい、
扇情的で官能的で淫靡な雰囲気だったが――――その、携帯の閉じる音が合図だったのだ。
俺は頭を下げるようにして、俺の首を固定する○○さんの腕から抜け出し、再び距離をとる。
「……え?」
という呟きは俺と○○さんから同時に零れ落ちた。
なにやってんだ、俺? それは俺自身にもわからない。
一方○○さんは目を丸くして思考停止している。
なので俺も思考を停止することにした。
場が白ける、とはこういうことを言うのだろう。
空気読めよ、当時の俺。
なんて今更言ってもしょうがない。
だって今でも読めないし、空気。
しかしその点、○○さんは空気を読み、場の雰囲気を取り繕う技術に長けていたようだ。
俺より歳下なのに。
「……私とじゃ、イヤなんですか?」
少し泣きそうに、哀しそうに眉尻を下げた表情。
そんな顔がどうしようもなく俺の胸を締め付けた。
泣かせたくないと思った。
だけど、そんなものは彼女の部屋に入る以前から一貫して抱き続けた感情なのだ。
だからこそ、俺が彼女と関係することに、こんなにも頑なな拒否を示しているのだ、と。
ようやく自身の不自然な行動理由を悟った。
○○さんは、こんなクズでダメな喪男と一緒になっちゃいけない。
一時の感情に流されて、取り返しのつかないコトをしちゃいけない。
それが、俺の出したかった答えなんだ、と気がついた。
だから俺は初めて俺のほうから言葉を紡ぐことにした。
「○○さんは、俺でいいの?」
と。 そう問われた彼女は、少しだけ驚いたような貌を見せた後、迷って、迷って、迷って……
「だって、喪男さんは――私の、その……いろんなトコ、もう知ってるじゃないですか」
と答えた。
ああ、やっぱり。そういうことなのだ。そう確信した。
初めての相手に俺を選んだわけではない。
初めての体験に保険のある存在が俺だけだった、ということなのだ。
そういうのはダメだ。
こういうのはもっと好き合った同士が幸せで幸せで幸せの絶頂の時、
互いがどちらからともなく互いを求め合って、そして初めて成立する神聖な行為であるべきなのだ。
だから、俺は再度問い掛けた。
「じゃあさ、○○さんは、俺のこと好きなの?」
「嫌いな人とこんなこと出来るわけないじゃないですか!」
即答だった。その答えは心地の良いものだったけど、
やはり違和感を覚える答えだった。
「嫌いな人じゃない、ってことはわかったけど……好きなの、俺のこと?」
三度、問う。もう彼女に逃げ道はない。
真実を答えるか、あるいは沈黙するか。
選択肢はそれしか残されておらず、どちらを選んでも答えは一緒だ。
結果、○○さんは沈黙を選び、
俺は自身が「○○さんにとって嫌いじゃないけど好きでもない人」であることを悟った。
○○さんは、叱られた子供のように俯き、或いは涙を堪えていたのだろう。
結果として泣かせてしまうことになりそうだった。
だけど、これは最悪の結果ではないと信じていた。
ここで彼女が泣いたとしても、それは彼女自身が悔しくて流す涙なのだ。
それは彼女自身が、自身の行いを悔いて流す涙とは根本的に違うのだから。
そんな彼女に自分の言葉が慰めになるとは思っていなかった。
でも何かを言わずにはいられなくて、
「こういうのはさ、いつか本当に好きな人が出来たときのために取っておくべきなんだよ」
なんて歯の浮くセリフを口にした。
でもそのときは間違いなく「決まった」とか思ってた。
死ね過去の俺。
そんな俺の言葉に感動してくれたのだろうか?
○○さんはゆっくりと顔を上げ、
「……ばか」
と呟いた。
その誹りには、だが確かに好意が混じっていたはずだ。
だけど俺は俺の思想に従い、その好意を受け止めることは出来なかった。
その時点で俺に出来たことは、黙って彼女を見守るだけ。
だから「バカ」という誹りも甘んじて受け入れるつもりだった。
俺が見守る中、彼女は、ゆっくり、
「ていッ!」
ぺきり、と俺の携帯をヘシ折った。
「――――って、なにしてんだーッ!」
違ぇだろ、バカ。
ここは目尻に浮いた涙を拭って、てへへ、とか笑いながら、
『参ったな……ホントに好きになったのに、いまさらだよね』
とか告白するシーンだろうが!
空気読めよ、○○さん!
てかエロ漫画の読みすぎか、俺!
「なにしてるもなにもないですよ! これじゃ私、見せ損じゃないですか!」
「だからって携帯折ることねーだろ!」
「いいじゃないですか! 生身無視して私の写真とっとく意味なんかないじゃないですか!」
「メモリがあるだろ!」
「5件じゃないですか! 私の含めて!」
そんなトコまで見てんじゃねーよ。プライバシーの侵害だ!
「じゃあやるよ! 今からやろう!」
「イヤですよ! もうシラけました! 喪男さんには今後一切なにもしないしさせませんし応じません!」
「畜生、この売女が!」
「な――っ! 売女とか言わないで下さいよ。処女ですよ、この童貞!」
「どっ……」
童貞ちゃうわ!とは言えなかった。
事実童貞だった(現在進行形)から。
「だいたい、好きあった同士が互いに望んで――とか思ってるから、その歳で童貞なんですよ」
「な……ッ」
図星過ぎて何も言えなかった。
「もうあっち行け、ばーか」
その誹りには微塵の好意も含まれていなかった。
泣きそうになった。
しかし本当に泣きそうなのは彼女のほうだっただろうか?
「ばーか! ばぁぁぁぁぁぁか!」
と、罵られ、携帯(折れてる)を投げつけられ、枕を投げつけられ、
それでもベッドの上から動かず、パタパタと脚をバタつかせる彼女。
そのスリーパーが脚の付け根まで捲れ上がり、ぱんつがチラリと覗くのを見て、
心底惜しいことをした――と思いながら、トボトボ部屋を後にする。
喪友の部屋に帰る。
喪友はあんな騒ぎがあったのに大鼾かいて寝てるし。
なんとなく腹が立った俺は、喪友の顔に水性ペンで落書きをした。
そしてそのペンで机の上に『帰る』とだけ書置きを残し喪友と○○さんの家を後にした。
玄関を出て、二階を見上げる。
○○さんの部屋にはまだ明かりが点いていた。
ホントは強がって俺を追い出しただけではないだろうか?
ホントはホントに俺が好きだったのではないだろうか?
そんな甘い妄想をしつつ、帰路に着いた。
徒歩で3時間かかる自分のアパートを目指した。
途中、荒川に投げ捨てた壊れた携帯電話には、
思い出とかエロい写真とか5件だけのメモリーとか、色々なものが詰まっていた気がする。
でもやっぱりたいしたものは入っていなかった気もする。
○○さんも今では大学生。
俺は未だに童貞。
携帯のアドレスも番号も昔のままだけど、○○さんからの着信はあれから一度もない。